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三善 晃 作曲 「嫁ぐ娘に」について


 この曲は、1962年にABC朝日放送の委嘱で作曲され、田中信昭指揮の東京混声合唱団の演奏で放送初演された。三善晃の初期の合唱曲の中で最もすぐれたもののひとつである。
 結婚を間近にひかえた娘に対する母の心を綴った高田敏子の詩に作曲されているが、娘の結婚を喜びながらも一抹の寂しさも交じる複雑な親心がみごとに音で表現されている。
 基本的には、女声三部、男声三部の六声部で書かれているが、どの声部も声楽的に無理がなく、音程もリズムも三善晃の作品の中にあって、非常に易しい部類に入る。
 しかし、それぞれの声部は歌い易いが、合唱曲としてこれほど様になり難く、難しい曲も少ないと思う。和音ひとつひとつが厳選されているため、どの声部も音程・音量・声部間のバランスなどに細心の注意を払って歌わないと、求めているものとはかけ離れた無残な音にしかならない。だが、うまくいくと、歌っていて鳥肌が立つほど美しい音が響く。
 合唱団の実力が問われる、厳しい、しかしあたかもエンゲージリングの宝石のように美しい合唱曲の名曲である。



( 2001.11.10 仙台放送合唱団 第40回定期演奏会プログラムより )