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池辺晋一郎 作曲 「東洋民謡集U」について


 この曲は1984年の「東洋民謡集T」が完成した時点ですでに構想されていたが、1990年に第3曲のチカプ・レキがまず作曲・初演され、残りの3曲を加えた全曲初演は、1992年に田中信昭指揮の東京混声合唱団によって行われた。
 この曲集に収められた歌は、アイヌの歌も含め、台湾・阿美族の祭りの歌、ヌビア(エジプト南部からスーダンにかけて)の民謡、クック諸島の戦いの歌と、いずれもわれわれの普段の生活からかけ離れた地域・民族のものである。地域という点で言えば、北海道は日本国内だが、アイヌ民族はわれわれとは風俗習慣が大きく異なっており、やはり普段の生活からは遠く離れた存在である。
 そういった遠いところの歌にもかかわらず、歌っていると異民族の匂いを強く感じながらも、なぜか懐かしいような気持ちになる。それは遠い祖先で繋がっている同じ東洋民族の血の為せる業であろうか。
 池辺晋一郎は東洋民謡をそのまま楽譜に書き写すのではなく、原曲の持つヴァイタルな息吹を生かしながら現代の合唱曲として再構築している。つまりこれらの曲は、あくまでも東洋民謡を素材とした池辺晋一郎の作品である。しかし逆に、作曲家・池辺晋一郎というフィルターを通した東洋民謡のエッセンスと言うこともできる。
 演奏するわれわれは、曲の持つ異民族の匂いと懐かしさ、土俗性と現代性という相反する2つの要素を融合させるバランス感覚が要求される。歌っていると理屈抜きで楽しいのだが、リズムもハーモニーも独特で、一癖も二癖もあるなかなか手強い曲集である。



( 2002.9.21 仙台放送合唱団 第41回定期演奏会プログラムより )