戻る



ローマ楽派とヴェネツィア楽派


 ルネッサンス時代のイタリア宗教音楽を代表する作曲家と言えば、まず、ジョヴァンニ・ ピエルルイージ・ ダ・ パレストリーナ(1525?〜1594)が上げられます。パレストリーナは1525年頃、ローマ近郊の(彼の呼び名となった)パレストリーナの町に生まれました。ローマで音楽の教育を受けたパレストリーナは 1551年にジュリア礼拝堂楽団楽長に任命され、それ以降 生涯にわたってローマの名だたる大聖堂の楽長などを務めることになります。パレストリーナはフランドル楽派など先駆者たちが発展させたポリフォニーの技術を完全に習得し、より洗練されたものに高めていました。また、反宗教改革時代のローマにあって、「テキストが明確に聞こえるポリフォニー」 というカトリックの教会音楽の美学的な課題を だれよりも見事に解決していました。そのため、パレストリーナは後世の規範とされ、ローマ楽派の祖とも呼ばれています。
 同じ頃、水の都 ヴェネツィアでは、聖マルコ教会を中心にローマ楽派とは全く傾向の違う教会音楽が黄金期を迎えていました。後にヴェネツィア楽派と呼ばれるこの一派は、保守的なローマ楽派とは対照的に、聖歌隊を2つ あるいはそれ以上のグループに分割して立体的な演奏を試みたり、トロンボーンを中心とする金管合奏を 器楽ばかりでなく 声楽との合奏にも用いたりして、華麗で劇的な演奏様式を発展させました。そのヴェネツィア楽派を代表する作曲家に、アンドレア・ガブリエリ(1510?〜1586) とその甥のジョヴァンニ・ガブリエリ(1553?〜1612)がいます。
 さて、今日演奏する7曲のうち5曲がパレストリーナで、アンドレア・ガブリエリ と ジョヴァンニ・ガブリエリが1曲ずつになります。 アンドレア・ガブリエリの Angeli Archangeli は 4声で書かれており、パレストリーナ(ローマ楽派)との違いがあまり感じられないと思いますが、ジョヴァンニ・ガブリエリの O Domine Jesu Christe (2重合唱)では ヴェネツィア楽派の特徴を十分に感得していただけるのではないかと思います。
                                                  
 
 演奏曲の歌詞の大意

Dies sanctificatus (聖なる日)
聖なる日、私たちを照らす。来たれ諸人よ、主をほめたたえよ。今日、地上に大いなる光が降り注ぐ。主が作りたもうたこの日を喜び、踊ろう。
Super flumina Babilonis (バビロン川のほとりで)
バビロン川のほとり、私たちは涙した。そのなかほどの柳に楽器をかけ、シオンを思い出しながら。
Heu mihi Domine (悲しきかな、主よ)
悲しきかな、主よ。あまりに大きな罪を犯した私はどうすればよいのか。あなたもとのほか、どこへ逃れられよう。最後の日に来られるとき、私を憐れみたまえ。
Ave Regina coelorum (幸いあれ、天の女王)
幸いあれ、天の王女、天使の主なる方。祝福あれ、光の生まれた聖なる源。
Angeli Archangeli (天使たち、大天使たち)
天使たち、大天使たち、玉座と支配、君主と権力、ケルビムとセラフィム ・・・ すべての聖人たちよ、われらに良きお取り計らいを。
Sicut cervus (鹿のように)
湧き水を求める鹿のように、私の魂は、神よ、あなたを求める。
O Domine Jesu Christe (おお、主イエス・キリスト)
おお、主イエス・キリストよ。十字架に付けられ、酢と苦汁を飲んだあなたに願う。あなたの傷が私の魂の癒しとならんことを。


( 2006.10.22 仙台放送合唱団 第45回定期演奏会 プログラムより )