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もの思いの合間に

〜もの思いにまつわる私の名盤〜

 フォーレ「レクイエム」                                   2006. 4.30
フォーレのレクイエムがあまりにも美しい曲だったので、レコードを買おうと思いました。ところが、さすがに名曲だけあってレコードが何種類も出ており、どれを買ったらいいか分かりません。何枚か買って聴き比べて違いを楽しんだりすればいいのでしょうが、貧乏学生ゆえ、そんな金銭的余裕はありません。
 そこでドビュッシーの時と同じように、合唱団の同期のTに聞いてみました。すると、T は

「クリュイタンスはいいですよ。クリュイタンス最高!」
と、これまたべた褒めなのです。
 
 私は何も分からないので、 T お薦めのものを買いました。アンドレ・クリュイタンス指揮、パリ音楽院管弦楽団、エリザベート・ブラッスール合唱団の1962年盤です。ソプラノ・ソロはヴィクトリア・デ・ロス・アンヘレス、バリトン・ソロは、かのディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウでした。

 レコードで聴いてあらためて、この曲の美しさを実感し、ますます好きになりました。それからかなり長い間にわたってこのクリュイタンス盤を聴き続けていました。
 あるとき、やはり名盤の誉れ高いミッシェル・コルボの盤を聴きましたが、なんだかあっさりしすぎていて、物足りない感じがしました。4曲目のピエ・イエズもボーイ・ソプラノが歌っていて、非常に清楚な演奏です。コルボ盤は、このピエ・イエズに象徴されるように全体に禁欲的な物静かな演奏だと感じました。
 その後、いろいろなレコード・CD を聴きましたが、やはりクリュイタンス盤が一番好きな演奏です。

 クリュイタンス盤で歌っているエリザベート・ブラッスール合唱団がどういう合唱団なのかよく分かりません(レコード解説にも書いてありません)が、歌心がいいですね。技術的にはあれっ?と思うところも散見されます。けれどもそれを補って余りあるほどの表現しようとする意志が見られます。特にテノールは、入祭唱とKyrie や Agnus Dei のパートソロなどで声のばらつきが見られるのですが、「こう歌いたいんだ!」という歌い手それぞれの思いがほとばしった結果のように感じます。
 ロス・アンヘレスのピエ・イエズも、とても温かくて人間的な歌声でイエスへの祈りが切々と歌われます。
 クリュイタンス盤は全体に、非常に人間くさい演奏です。禁欲的で、ある意味個々の人間を感じさせないコルボ盤とは対極をなすような演奏です。でも、いろいろな人生を背負った生身の人間が、それぞれの思いを込めて一生懸命祈っているようなクリュイタンス盤の演奏が私は大好きです。

 最初に買ったときはレコードでしたが、その後同じ盤を CD で買って今はそれを聴いています。左のジャケットは CD のものです。

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