第九 2005.12.17 |
年の瀬が近づき、今年も日本全国で第九の演奏会が開かれています。仙台近辺だけみても仙台フィルのほかに角田や岩沼でもこの時期に定期的に第九の演奏会を開いています。
私自身が第九を歌うようになったのは最近のことです。学生のときに仙台フィル(当時まだ宮城フィル)の演奏会の練習には出ましたが、練習のあまりのつまらなさに途中で嫌になって本番のステージには乗りませんでした。第九の本番のステージに立ったのは、5年前の仙台フィルの演奏会が初めてです。
私は第九という曲があまり好きではありません。理由は単純です。第九は合唱が主役ではないし、歌っていてもあまりおもしろくないからです。そうです。第九はあくまでもベートーヴェンの交響曲の一つであり、「合唱付き」なのであって「合唱曲」ではないのです。オーケストラだけでは表現し切れなかった音楽を合唱を加えることによって実現した、言ってみれば声をオーケストラの楽器の延長として使ったオーケストラのための曲です。そのためか(あるいはベートーヴェンが聴覚を失っていたことも関係しているのでしょうか)、どの声部も限界ぎりぎりの声を要求されており、声楽的には非常に歌いにくくできています。アマチュアがちょっとやそっとで歌いこなせるような曲ではないのです。
ずっと合唱をしてきた私には、どうして第九ばかりがもてはやされるのかさっぱり分かりません。たしかに、第九は音楽史上に燦然と輝く傑作には違いないし、何度歌ってもなかなか極められない難曲だと思います。でも、音楽史上の傑作で、しかも第九よりも合唱として歌い甲斐のある曲は、ほかにたくさんあるのです。オーケストラを伴った合唱という形態だけで考えても、バッハにもヘンデルにもハイドンにもモーツァルトにも、そう、ベートーヴェンにだってあります。もちろん、ベートーヴェン以降の作曲家にもオーケストラを伴った合唱曲の傑作はたくさんあります。なのにどうして第九だけなのでしょうか。
日本全国でこの時期に行われる第九の演奏会を担っているのは、ほとんどがアマチュアの合唱団です。第九を歌うためだけに結成される合唱団もあります。そういう合唱団の中には、いろいろなところで行われる第九の演奏会に参加して、第九ばかり何度も歌っているという人が少なくないようです。前にも書いたように、第九は何度歌ってもなかなか歌いこなすことのできない難曲ですから、そのこと自体を否定したり非難したりはしません。けれども私は、そういう人たちに第九以外の合唱にも目を向けていってほしい、合唱の裾野を広げていってほしいと思います。
第九は合唱を使った音楽の最高峰の一つではありますが、決して合唱曲のスタンダードではないし、合唱の醍醐味や楽しさを十分に味わえる曲ではないと私は思っています。 |
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