もの思いの放課後

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今年を振り返って@                                     2010.12.11

 毎年この時期になると、一年間の主だった出来事やニュースをピックアップし、その年を振り返るといった内容のテレビ番組をよく見かけるようになります。今回は、「放課後の音楽室」の管理人としての視点から今年を振り返ってみたいと思います。

 「放課後の音楽室」の管理人として一番のトピックは、やはり何と言っても「HPの約2年ぶりの再開」でしょう。しかし、今考えてみても、なぜ今年、あの時期にHPを再開することが出来たのかよく分かりません。
 HPを休止していた約2年の間には、再開を考えたことが何度かありました。しかし、そのときは再開に到りませんでした。HP作成ソフトの使い方を忘れていたというのが再開を阻んだ最も大きな理由ですが、それは今回だって同じだったのです。また、今回が特に時間的に余裕があったというわけでもありません。確かに再開したのは夏休み中ですが、長期休業だったら、これまでに何度もあったのです。
 今までと変わったことがなかったにもかかわらず、今回再開に漕ぎ着けたというのは、機が熟したということなのでしょうか。とにかく、8月22日に約2年ぶりに再開したHPは、それから約4ヶ月間(危惧された学期末評価の時期も乗り越えて)継続しています。今後もこのまま続けていきたいと思っています。

 もう一つのトピックは、劇台本「石の狼」が脚光を浴びたということでしょう。この「もの思いの放課後」で、学芸会で取り組んだ劇台本「石の狼」のことを書いたのは2005年の11月末、今からもう5年も前のことです。それ以来、そのエッセイはずっとこのHP内にあったのですが、これまで「石の狼」に関して問い合わせが来たことは1回もなかったのです。
 ところが、今年は10件近い問い合わせがありました。そのほとんどが、小学校にお勤めの教員の方からでした。お問い合わせいただいた方で、台本が欲しいという方にはお送りしましたし、その中にはそれを使って(もちろん学校の実情に合わせて大なり小なり書き直してあると思いますが)実際にご自分の学校で「石の狼」に取り組んだ先生もいらっしゃいました。
 私は、初めて5年生を受け持ったとき「石の狼」に取り組み、それ以来、取り組む機会に恵まれていませんが、深くて重いテーマをもった優れた作品だし、私も気に入っている台本なので、このまま埋もれてしまうのはもったいないと思っていました。それが今年、こういった形で脚光を浴びて、学芸会で取り上げられ、実際に子供たちによって上演されるということになったことは喜ばしい限りです。


今年を振り返ってA                                       2010.12.25
 今回は、子どもたちに音楽を指導する一人の教員としての視点で今年を振り返ってみようと思います。
 今年一番のトピックは、学芸会で「いきものがかり」の「ありがとう」を歌ったことです。「なんだ、大したことじゃないじゃないか」と思われるかもしれません。たしかに、そのこと自体は大したことではないのですが、それによって私の意識が大きく変わったという意味で画期的な出来事だったのです。

 私は以前から「子どもたちにポピュラーソングの編曲ものの歌は歌わせないほうがいい」と思っていました。(ポピュラーソングという定義が難しいのですが、まあ、CD の売り上げとか、着メロや着歌のダウンロードがランキング上位に入るような曲だと思ってください。いまでは J-ポップとか K-ポップとか細かく区別する言い方もあるようですが、広く「ポピュラーソング」という呼び方にしておきます。)ポピュラーソングでヒットするような曲は、子どもたちが声を揃えて歌ったり、合唱したりするのにはそぐわないと思っていたのです。
 ポピュラーソングのヒットの要因は、歌声や歌い方、もちろんルックスも含めて歌手の個性によるところが大きいと考えられます。楽曲も、はじめからその歌手が歌うことを前提として作られていたり、自分(達)が歌うために自分(達)で作詞・作曲したりすることが多いようです。その歌手が歌うからいいのであって、曲がいいからヒットするということではないのです。(もちろん、曲が悪ければ論外ですが・・・)
 たとえば、SMAPが歌って大ヒットになった「世界に一つだけの花」ですが、作詞・作曲した槙原敬之自身が歌って発売したら、あれだけの大ヒットになったとは思えません。その同じ「世界に一つだけの花」を(あり得ないことでしょうが)ダークダックスやボニージャックス(古い!)が歌って発売したとしたら、ヒットさえしなかったかもしれません。
 そのような歌手の個性に大きく依存する歌を、子どもたちがみんなで歌う意味はどこにあるのでしょうか。
 また、楽曲そのものを見ても、十六分音符で細かく刻むリズムの上にたくさんの歌詞を詰め込んだようなものが多く、それをさらに歌手が崩して歌っているので、声を揃えて歌ったり、合唱したりすることにそぐわないものになっています。
 何年か前に、「世界に一つだけの花」の編曲ものを4年生が歌ったのを聴きましたが、子どもたちは地声でSMAPの物真似のように歌っていて、地声なので音色は綺麗でないし、高い音は出ないし、音程は下がるし、音価は守られていないし・・・。この曲を歌うことに何の意味があるのかと思いました。
 大人の合唱団でもポピュラーソング(懐メロや歌謡曲も含む)の編曲ものを取り上げるところがありますが、楽しめる演奏にお目にかかることはまずありません。編曲にもよりますが、合唱という演奏形態でどこまでポピュラーに近づけるかというバランスが難しいのです。あまりに合唱然としていて堅苦しい演奏ではポピュラーを歌う意味がないし、かと言って崩しすぎると「合唱で歌わなくてもいいんじゃない?」ということになります。
 そういったもろもろのことから、「ポピュラーソングを選ばなくても、子どもたちの歌声に適した曲はもっとほかにあるだろう」と思っていたのです。

 今年、学芸会で「ありがとう」を歌うことになったのは、「今までお世話になった人たちに感謝の気持ちを表す」という学年の選曲のコンセプトにぴったりだったからです。学年主任の先生がこの曲を候補に挙げたのですが、これ以上の選曲はないだろうと思えました。NHKの朝の連続テレビドラマ「ゲゲゲの女房」のテーマソングとして、子どもたちの耳にも保護者にも耳に馴染んでいるだろうと思ったこと、曲のサビの部分が私の耳にも残っていて、いい曲だなあと思えたことなども私が賛同した理由です。
 実際に取り組んでみると、最初は、聞き覚えた歌手の物真似みたいだった子どもたちの歌い方も、練習を積み重ねていくうちに、だんだん子どもらしい素直な歌声に変わっていきました。もちろん、私がそのように指導したということもありますが、優しい曲想や、サビの部分の伸びやかなメロディーラインなど、楽曲そのものがそういう歌声を呼び寄せたように思えるのです。
 子どもたちはこの曲が大好きになりましたし、学芸会(一般公開)では、聴いていたお客さんの中で目頭を押さえる方が何人もいらっしゃったとか・・・。
 今年「ありがとう」に取り組んだことによって、「ポピュラーソングの編曲ものはよくない」という決め付けをせずに、「まっさらな気持ちで1曲1曲を見極めなければならない」というふうに私の意識が変わりました。


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