もの思いの放課後

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リコーダー@                                        2005. 7. 2

 私の勤務する小学校では(市内の小学校どこでも同じだと思いますが)、いま3年生が音楽の時間にリコーダーに取り組んでいます。5月にリコーダーを購入して学習を始めましたが、そろそろ曲らしいものも吹けるようになり、子供たちもおもしろくなってきたころだと思います。
 さて、リコーダーの指使いにはバロック式とジャーマン式(イギリス式とドイツ式ともいう)の2種類あることはご存知だと思います。正確に言うと、バロック式の楽器と、ジャーマン式の楽器があり、それぞれ運指が違っているということで、一つの楽器で二通りの指使いがあるわけではありません。つまり楽器を買う時点で、バロック式とジャーマン式のどちらにするか選ばなければならないわけです。
 私の学校ではジャーマン式を選びました。もちろん保護者や子供自身にどちらにするか選ばせてもいいわけですが、二つの楽器が混在すると運指の指導に手間がかかり混乱の元なので、どの学校でもどちらかを選んで斡旋することがほとんどです。
 楽器を納入した業者さんに「市内ではバロック式とジャーマン式とどのくらいの比率ですか?」と聞いてみたところ、「ほとんどジャーマン式ですね。」と言っていました。調べてみたわけではありませんが、全国的に見てもジャーマン式を採用している割合が圧倒的に高いと思います。ところがこのジャーマン式のリコーダーは、日本の教育音楽以外ではほとんど使われていません。
 リコーダーそのものの歴史は古く、バロック時代までは横笛(現在のフルート)よりも一般的でした。しかし、ジャーマン式のリコーダーの歴史は非常に新しく、1920年代にドイツで作られたものです。日本では、1936年のベルリン・オリンピックを機にリコーダーが教育楽器として導入されたようですが、そのときにジャーマン式が採用され、現在に至っています。ところが本国ドイツでは、かのヒットラー・ユーゲントがこのジャーマン式のリコーダーを使っていたこともあってか、現在の採用はごく少数のようです。世界的に見ると、ジャーマン式のリコーダーは全く一般的ではありません。
 世界中で日本だけ、しかも小学校の教育音楽の場でしかジャーマン式のリコーダーは使われていないのです。中学校に行くとアルト・リコーダーを使うようになるのですが、こちらは逆にバロック式が一般的で、ジャーマン式はほとんど使われていないという何ともちぐはぐな現状です。


リコーダーA                                            2005. 7. 9
 私が以前3年生を受け持って、リコーダーの学習を始めるにあたってバロック式とジャーマン式のどちらを採用するか決めたときの話です。
 そのときすでに私は、リコーダーの世界ではバロック式が主流であって、ジャーマン式はほとんど日本の教育音楽でしか使われていないことを知っていました。また、中学校に行ってから習うアルト・リコーダーはバロック式で、小学校で習ったジャーマン式の指使いとは違うので、教えるときに二度手間だということを中学校の先生からも聞いていました。だから、学年会(学年の先生方で、学習進度や教材選定などの連絡・調整を行うため週1度くらい開かれる話し合い)で採用するリコーダーを決めるときは、バロック式を選ぶように働きかけようと考えていました。
 いよいよ学年会でリコーダーをどうするかという話題になりました。
学年主任の先生から意見を求められて私は、中学校で習うアルト・リコーダーと指使いが食い違わないように最初からバロック式を採用した方がいいのではないかと言いました。すると学年主任は、できればジャーマン式にしてほしいと言うのです。学年主任は以前に、どうしてもバロック式だと強硬に主張する先生と同じ学年になってしまい、バロック式を採用したことがあるのだそうです。そうしたら、子供たちの多くがファの指使いが難しくてそこでつまずいてしまったというのです。
「学習し始めの3年生にとって、バロック式のファの指使いは難ししくて、そこでリコーダーが嫌いになってしまう子もいるのよ。中学生くらいになればバロック式、ジャーマン式の違いを分かって使い分けられるようになるんだから、小学校では簡単なジャーマン式でいいんじゃない。」
学年主任にそう言われて、私はバロック式採用を主張するのをやめました。長く現場にいて、実際にバロック式とジャーマン式のどちらの指使いも教えてきた学年主任の言葉には重みがありました。私の意見は、ただ頭の中で観念的にバロック式のほうがいいと考えていただけだったからです。そのときの3年生はジャーマン式のリコーダーを採用しました。

 それ以来、3年生がリコーダーの学習を始める時期になるといつも考えます。今度自分がリコーダーを教えるようになったとき、バロック式とジャーマン式とどちらを選ぼうか・・・
 3年生(8〜9歳)の発達段階を考えるとバロック式のファの指使いは確かに難しい。しかしそれだけで、将来発展性のないジャーマン式を選ぶ理由になるだろうか。後々のことを考えると最初少し難しくてもバロック式を教えておいた方がいいのではないか。しかし、それでリコーダーを難しい楽器だと思い込んだり、リコーダーを嫌いになったりしたら元も子もないのではないか・・・

 考えは堂々巡りで結論は出ていません。


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