作曲家・佐藤眞を知ったのは、中学校3年生の秋、校内合唱コンクールのときでした。私のクラス3年C組は、コンクールの自由曲で佐藤眞作曲のレクイエム「眠れ幼き魂」の第1曲、「はじめの歌」を歌いました。
私は、中学校の部活動ではずっと器械体操に打ち込んでいて、合唱とは無縁でしたが、3年の中総体が終わり体操部の現役を引退したあと、ひょんなことから合唱部に入りました。3年C組の男子で合唱部員は私だけだったので、当然の成り行きでコンクールで指揮をする羽目になり、ついでに選曲まで任されてしまいました。たった2ヶ月前に合唱部に入ったばかりで合唱曲なんか何も知らない私は、途方にくれて合唱部の顧問の先生に相談しました。先生が「これがいいんじゃないかな」と楽譜を渡してくれたのが「はじめの歌」でした。
「眠れ幼き魂」は空襲で亡くなった幼い女の子のことを歌ったレクイエムですが、第1曲「はじめの歌」は、すすり泣きのようなハミングから始まり、「お母さん お母さん 呼んでいるのは 死んだ小さな女の子〜」というような歌詞が3番まで続く悲愴な歌でした。同じメロディー、同じ和声で3番まで繰り返すので技術的に易しく、曲想も3番に向かって次第に昂ぶっていくという分かりやすい曲だったので、練習もスムーズに進みました。また、歌詞が歌詞だけに感情移入しやすく、コンクール本番もかなり思い入れたっぷりの演奏になったのではないかと思います。
3年C組はコンクール前の下馬評ではほとんど注目されていませんでしたが、曲のおかげで、抜群に上手い優勝争いの2つのクラスに次いで、第3位に入ることができました。
次に佐藤眞の曲に出会ったのは高校1年の秋です。中学校の合唱部の後輩たちが、NHKコンクールで、佐藤眞の混声合唱組曲「蔵王」の終曲「早春」を歌ったのです。私は、先輩として応援のためにNHKコンクール岩手県大会を聴きに行って、そこで初めて「早春」を聴きました。残念ながら、後輩たちは岩手県大会で優勝することができず、東北大会には進めませんでした。けれども、そのときに聴いた「早春」の美しいメロディーとハーモニーは、優勝校の演奏よりも私の心に沁み込みました。
そのすぐ後に、今度は高校の校内合唱コンクールで、私は佐藤眞の混声合唱組曲「旅」の中から「行こうふたたび」を歌いました。この曲もまた、私にとって忘れ難い曲になりました。
佐藤眞のメロディーやハーモニーは、中学生・高校生の年代の心を虜にする特別な響きがするのでしょうか。私が中学・高校時代に出会った佐藤眞の曲は、どれも私にとって掛替えのない大切な曲になっているし、現在の中学生・高校生にも佐藤眞の「大地讃頌」は絶大な人気を誇っていて、校内合唱コンクールで最も多く歌われる曲の一つになっています。
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